R35GTRの最強のエンジン「VR38DETT」を徹底解説

現在日産の誇る最強のエンジンといえば「VR38DETT」で誰も異論は無いだろう。

「VR38DETT」は、2007年に発売された「日産・GT-R(R35型)」のために専用設計されたハイパワーユニットだ。

このエンジンは、2024年の現在時点でも国産最強のユニットとして君臨している。

ここでは、その「VR38DETT」の最強たる所以を掘り下げていこう。

R35GTRのエンジンスペック比較

「VR38DETT」がどんなエンジンかを知るには、まずそのスペックから知っておきたい。

現在の最新スタンダードモデルである2017年式GT-Rのエンジンスペックを見てみよう。

エンジンスペック表(最新モデル)&スペックの説明

<VR38DETTの最新(2017)モデルのスペック>

項目詳細
エンジン型式VR38DETT
種類V型6気筒 DOHC 24バルブ
排気量3799cc
内径✕行程95.5mm x 88.4mm
ボアストローク比0.93
単気筒容積633.2cc
圧縮比9
加給方式ツインターボ
最高出力419kW(570ps)/6800rpm
最大トルク637N・m (65.0kgf・m) /3300-5800rpm
使用燃料プレミアムガソリン

エンジンのタイプはV型6気筒のDOHC ツインターボ。

排気量は形式名の「38」が示すように3,799ccと約3.8ℓで、国産の中では上から数えた方が早い排気量の大きさだ。

最高出力は570psで、レクサスLFAと同等の数値だが、トルクは65kgf·mもあり、LFAより15kgf·m以上上回っている。

このパワーをMAXで発揮すれば、軽く300㎞/hをオーバーする。

前期 / 中期 / 最新モデル / 最新モデル(Nismo)の馬力、トルク比較表

「VR38DETT」には、初期の2007年から最後期の2017年までの間に何度かのモディファイが加えられていて、その出力も向上している。最強ver.の「NISMO」も入れて比較してみよう。

<歴代各モデルの最高出力と最大トルクの比較表>


初期モデル・2007モデル中期・2011モデル後期・2017モデルNISMO・ 2014モデル
最高出力480ps/6400rpm530ps/6400rpm570ps/6800rpm600ps/6800rpm
最大トルク60.0kgf.m/3200-5200rpm62.5kgf.m/3200-6000rpm65.0kgf.m/3300-5800rpm66.5kgf.m/3600-5800rpm

単純に発売開始から10年の間で、出力で90ps、トルクで5.0kgf.mの向上を果たしている。

馬力、トルクそれぞれで発生回転数が高くなっているので、おそらくはカムプロフィール、吸排気の効率改善、燃料&点火のプログラム調整などの見直しで高められたのではないかと推測される。

「NISMO」グレードに関しては、レース専用の「NISMO GT3」と同じタービンを採用して大径化。パワーは一気に600psへと増大され、「NISMO」の名に相応しいパフォーマンスを発揮する。

R35GTRエンジンの特徴

「VR38DETT」はV型6気筒DOHC24バルブのツインターボという、構成的には特に注目すべき点は見られない。

しかし、発揮される大出力と、それを発揮してなお10万㎞以上保つという驚異の耐久性が与えられた高性能ユニットに仕上がっている。

このV型6気筒というレイアウトが選ばれた理由については、GT-Rに世界最高レベルの運動性能を与えること。

ニュルブルクリンク最速を目指した設計哲学、V型6気筒の選択理由

目標のひとつであった「ニュルブルクリンク」サーキットで市販車最速のタイムを出すためには、車体の中心に重量物を集めることが重要という理由から、前後長が短くできるV型6気筒が選ばれた。

排気量に関しては、設計技術の蓄積がある「VQ」型をベースとしつつ、世界で戦えるパワーを発揮出来る排気量を得るために、ボアを最大まで拡張する設計がおこなわれたのではないかと推察する。

ハイパフォーマンスを支える技術、拡張ボアとショートストロークの組み合わせ

ボア×ストロークは95.5mm×88.4mmで、ボアストローク比0.93のショートストローク仕様となっているのは、高性能エンジンに有利な基礎が与えられていると言えるだろう。

今では可変バルブ機構は高性能エンジンに必須の装備となっている。今どきはタイミングの変更からリフト量まで変更できるものまであるが、この「VR38DETT」では吸気のタイミングのみしか与えられていない。

VR38DETTの熟練工による手組み製造プロセス

見方によっては古い設計に思えるが、実際は充分なパフォーマンスを発揮しており、むしろ基礎的な部分の性能追求に注力したストイックな精神が感じられる。

このエンジンの組み立ては通常のラインでおこなわれず、このエンジンのために設えられたクリーンルームにて、「匠」と呼ばれる熟練工の手でおこなわれているらしい。

機械による組み立てではどうしても組み付けの精度やトルク管理に限界があるが、部品ごとに微妙に異なる締め付けトルクの微細な管理や、カムのクリアランスの確認など、性能に関わる要素のツメは、熟練の技術者に負うところが大きいということだろう。

ちなみに一台の組み付けに一人の匠が付き、裸のブロックの状態から組み上がりまで3時間を要するという。8時間労働だとして一日に3台未満という生産量となる。

日産のVQエンジンとの系譜の違い

「VR38DETT」は、「V36型スカイライン」に搭載されている「VQ37VHR」がベースとされている。

しかし、アルミ製ブロックの60度V型6気筒という構成と95.5㎜のボア径以外は共通点を探す方が難しいというほどに、新たな設計変更によって生まれ変わっている。

ボア径は共通の数値だが、「VR38DETT」はストロークの拡大で排気量がアップされている。

「VQ37VHR」は自然吸気のため、パワーの発生回転が高い仕様となっているが、「VR38DETT」はターボ+四輪駆動ということで、高回転特性よりもトルクの厚みを重視している。

また、高出力を発生させ、かつ耐久性を上げるため、新たにプラズマ溶射コーティングによるシリンダーライナーを持たない構成となっている。

これはシリンダーの冷却性能を高める狙いで採用された技術とのこと。

また、燃焼室付近の剛性が保てるクローズドデッキ仕様となっているのも違いのポイントだ。クローズドデッキは冷却通路が制限されるのが欠点だが、ライナーレス構造により全体の冷却性能は上がっているようだ。

第2世代GTRとの違い

同じGT-Rのエンジンとして比較に上がるのが、第2世代と言われるR32〜R34型GT-Rに搭載されていた「RB26DETT」だ。

6気筒のツインターボという部分は共通しているが、むしろそれ以外はまるで別のエンジンなので比較するのもどうかと思うが、どちらもその時代ごとの日産のフラッグシップ的な存在ということで、性能面での比較をしてみよう。

まずは排気量が2.6ℓと3.8ℓでまるで違うが、どちらも高性能なターボエンジンということで、リッターあたりの馬力を比較してみると、

  • RB26DETT:最高出力315ps※ ÷ 排気量2.568ℓ —- 122.66ps/ℓ
  • VR38DETT:最高出力570ps ÷ 排気量3.799ℓ —- 150.03ps/ℓ

※RB26DETTの馬力カタログ値280psは自主規制のため、規制前の数値を使用

という比較結果となり、排気量を差し引いても高効率な性能を発揮していることが分かる。

数値でもそこそこの差があるが、「VR38DETT」は強大なトルクを低回転から発生させているので、実際に乗ってみるとその差はさらに大きいものに感じられる。

ターボの掛かり具合は「RB26DETT」の方が急激な印象だが、これは効きが強いと言うよりは下のトルクが薄いせいではないかと思われる。

生粋のサーキット用エンジン

開発者へのインタビューによると、この「VR38DETT」は、前の世代のGT-R(R32〜R34)がチューニングによって得た500psというパワーをツルシの状態で発揮し、さらにサーキットで酷使した後でも普通に走行して帰れるという耐久性を持たせることが開発の目標だったそうだ。

実際の所有者の話からもそれを裏付ける話を聞いたことがある。

月に2〜3回サーキットで全開走行を楽しむような使い方で、特別なクールダウンの儀式などおこなわずとも油温は安定。そのまま一年を通して特に不具合は発生しなかったという。

オイルパン形状

エンジンの耐久性は、潤滑と冷却の能力が最も大きな鍵を握っていると言って良いだろう。

とりわけ潤滑と冷却の両方を担っているオイルは、重要な役割を担っている。このR35GT-Rは先述のようにサーキットでの走行を想定しているマシンなので、発熱の大きさだけでなく、コーナーやブレーキングによる強烈なGに対する対策も必須となる。

最も起こってはならないのがオイルの空隙だ。途切れずに常に回っていれば潤滑と冷却は果たされるが、Gによる油面の偏りで、オイルが途切れると、そこに熱や負荷が集中し、破損に繋がる。

その対策として、主にレース用のエンジンに採用されているドライサンプ方式を採用し、強制的にオイルを回す。そしてエンジン各部から回収されたオイルを溜めておくオイルパンの形状を工夫して、強いGが掛かってもオイルストレーナーが常に油面に浸かっている状態を作っている。さらに、オイルポンプでシリンダーヘッドに向けて送られたオイルが、Gによって逆流するのを防ぐために、クロスフローというオイル通路のレイアウトを採用して対策している。

また、オイル自体の管理も徹底している。実証データの無い社外オイルの添加剤などがエンジンを構成するパーツに悪影響を及ぼすことを避けるため、日産では「モービル1 0w40」のみを指定の銘柄としている。

エンジン故障の少なさ

「VR38DETT」は、その国産最強の性能の印象が大きいせいか、高性能の面に注目が集まっているように感じるが、実はいちばん注目して欲しいのは、その耐久性だ。

開発者が語ったように、夏場にサーキットで酷使したあとでも、エアコンを掛けて音楽を聴きながら渋滞に耐えて普通に帰れる。そんな使い方ができるということが、どれだけ凄いことか。

出力の数字だけを見れば、他にいくらでも高性能なエンジンはあるが、その多くのエンジンは、耐久性や扱いやすさを犠牲にして高い出力を得ているのがほとんどである。

発売から10年以上が経過したが、そのなかではメーカーの想定外の使い方をされてきたことも多々あると思うが、それでもエンジンブローの報告例が意外にも少ないということが、このエンジンの壊れにくさを証明していると思う。

過酷なチューニングに耐える耐久力

ハイパフォーマンス車の定めとして、発売から間もなくサーキットやドラッグレース、あるいはストリートカスタムのベース車両としてチューニングが施されてきた「VR38DETT」。

豊富なノウハウを持つ国内のチューニングショップで今や1000psクラスはゴロゴロ存在する。

海外では2000psオーバーのモンスターもあると聞くが、それが事実なら、エンジンや駆動系など中身は別物になっていると思われるので参考にしないほうがいいだろう。

特別な内部パーツなしで800馬力仕様も可能な耐久性

「VR38DETT」は、エンジンには手を付けず、ECUの変更によるブーストアップと排気系の見直しで、「NISMO」の600psを越える出力アップが可能とされている。

点火やインジェクターなど、トータルで手を加えれば700psも視野に入るポテンシャルがあるようだ。

おそらくそのパワーでも、エンジンの構成部品に関しては充分な耐久性を保つと思われる。

しかし、お手軽なブーストアップと言えど、大幅なパワーアップにはリスクがあるということは頭に入れておいたほうがいいだろう。

出力が上がれば、必然的に発生する熱量も上がるので、その増えた熱を逃がす対策をしないと、どこかに必ず負荷が掛かってしまう。特にオイルの管理はシビアになるだろう。

ECUでスクランブルモード的なものを作って、ここぞというときだけ600psを発揮出来るにするようにすれば、ノーマルと変わらない使い方はできるかも知れない。

1000馬力仕様が作れるアフターパーツ、チューニング技術の充実した車両

「VR38DETT」のチューニングとしては、本体に手を入れずに、タービン、ECU、インジェクター、インタークーラーなど周囲のパーツを交換することで800psくらいまでは引き出せる。

しかしその領域は、かなりの割合で耐久性と引き替えというのを覚悟しなければならないだろう。

その気になれば、4ℓ超になるストロークアップキットを組み込んで、ビッグタービンのハイブースト仕様で1000psオーバーも狙える。

この仕様を700ps程度で運用すれば、エンジンノーマルの同馬力仕様よりも耐久性は期待できるかも知れない。今は海外製のタービンやECUなども豊富に売られているので、チューニングパーツの選択肢はより取り見取りと言える。

とことんパワーを求める方向はもちろん、耐久性を落とさずにパワーを稼ぐという組み合わせも可能なので、望んだ仕様のチューンド・ユニットを作り上げることができる状況だ。

まとめ:一度は乗って欲しい名機

第2世代GT-Rの時代は280psでも「扱いきれず危険」と判断されて自主規制がおこなわれていたが、その倍近い570psを発しているにも関わらず、サーキットをガンガン攻めても10万㎞のレベルををクリアする耐久性を与えられた「VR38DETT」。

逆に、「壊せるものなら壊してみな」と煽って威勢の良い若者に貸したとしても、おそらくエンジンには大したダメージは与えられないだろう。

少し前ならモンスタークラスだった600ps近い大パワーを、気兼ねなくブン回せる時代がこれほど早く訪れるとは予想していなかった。ここまではスペックや情報を元に「VR38DETT」の特色やその魅力をお伝えしたが、最後に実際にアクセルを踏んでみた感触をお伝えしておきたい。

試乗したのは数年前で、車両は2008年モデルの中古車なので、最高出力は485ps。

スタートボタンを押して始動すると、素早くエンジンが立ち上がり、すぐにピタッとアイドリングが安定する。排気音は、音量は抑えられているが、排気の圧を感じる乾いた質感で、性能の高さが想像できる。

走り出すと、2000rpmも回していないのに、アクセルを踏んだだけ車体が前に押し出されるトルクが感じられる。

ギヤを変えずにそこからアクセルを踏み込むと、一瞬の間を挟んで「ウオッ」という締まった音を伴って背中がシートに押さえつけられる加速が始まる。

3500rpmも回っていれば、踏んだ直後にタイヤを空転させるトルクが発揮され、すぐにトラクションコントロールが作動する。

アクセルペダルとタイヤが繋がっているかのようなダイレクトなトルクフィールは、重いはずの車体が軽く感じられる。アクセルをすこし慎重に踏んでいくと、6000rpmまでフラットに力強い加速が続き、かなり気持ち良い。

おそらく4速でも回転の上昇スピードは変わらないと思われるので、免許などあっという間に取り上げられてしまうに違いないと思わされた。2008年モデルでこの加速である。100ps以上出力の高い「NISMO」はFISCO辺りでないと全開走行を楽しめないのではないだろうか。

R35GTRを経験するならおもしろレンタカーまで

最高出力の数値を見ると、初めて乗るという人は到底扱えないと及び腰になるかもしれない。

しかし、その性能は3000rpmという低い回転からでも充分味わうことができるし、

言葉では伝わらないかも知れないが、信じられないくらいに扱いやすい。

そしてそのパワーを受け止める車体は安心感のかたまりで、アクセルを踏みすぎてもスタビリティーコントロールが助けてくれるから、多少ワイルドな操作をしてもとっ散らかるようなことは無いと思われる。

500psを軽く越える強大なパワーを、安全の範囲で充分堪能することができる「R35GT-R」で、

日産の誇る名機「VR38DETT」のトルクフィールを体感してみて欲しい。