WRCルーツのGRカローラエンジン:304馬力の高性能エンジンの裏側

GRカローラのカタログスペックには304馬力と記載されていますが、実際に運転してみるとその数字以上の驚くべき性能が発揮されるのがこの車の特長である。その前に、基本的なスペックについておさらいしよう。馬力は304であり、トルクは40キロである。これだけの性能を1.6リッターという小排気量で実現している点が注目すべきである。

この車のエンジンは3気筒であり、WRC(世界ラリー選手権)での活躍を目的とした専用設計である。通常の4気筒エンジンを使用するのではなく、3気筒エンジンを採用することで、特異な性能を発揮しているのである。

さらに、このエンジンはその類まれな性能を発揮するために、下山工場で一定の水準をクリアした高技能者の”手”で組みたてられるのだ。まさに高品質なレーシングエンジンである。

エンジンのサイドにはその証である「匠プレート」が取り付けられている。

この記事では、GRカローラに積まれたエンジンユニットについてその設計から、フィーリングまでを細かくチェックしていきたい。

レース譲りのエンジンを搭載したハッチバック

このGRカローラの一番の魅力はやはりエンジンだろう。

なぜならGRカローラに搭載されるエンジンはGRヤリス用と同型式のG16E-GTS型1618cc直3ターボだ。

このエンジンは元々はWRCのレギュレーション用に開発されていたという経緯があり、そのレギュレーションにあわせて、1618ccという市販車として税制メリットのあまりない特殊な排気量となっている。

この点はGTRに搭載されていたRB26と同じような理由と言えるだろう。

そのような経緯があったからこそ、このエンジンはレースで勝つために小さい排気量ながらハイパワーを出す前提で設計されているのだ。もちろん高性能エンジンとあって、吸気側、排気側の両方にVVTという可変バルブタイミング機構を設けており、これによってバルブタイミングが最適化されている。

最高出力は304ps/6500rpm、最大トルクは370Nm/3000-5550rpmを発揮する。なんと元々搭載されていたGRヤリスよりも32psのパワーアップを図るとともに、最大トルク値自体は変わらないが発生回転域を上に950rpm広げているのが大きな特徴だ。

ちなみに手に入れるのは非常に難しいのだが、70台が限定で販売された最上位グレードのモリゾウエディションでは最大トルクを400Nm/3250-4600rpmへとベースモデルから30Nmもアップしている。

また驚きなのが、これだけハイパフォーマンスなエンジンでありながら、燃費はWLTCモードで12.4km/リッターと燃費も全く悪くないのだ。燃焼効率の高さはパワーアップだけではなく、燃費にも好影響を与えているのだろう。

3気筒は勝つための選択

まず気になるのは、3気筒エンジンという点だ。日本国内で3気筒エンジンというと排気量の少ない軽自動車のエンジンに積まれる事が多い。

ではなぜ、このエンジンはあえて3気筒を選択したのか。

そのメリットは主に2つある。

1つ目は、エンジンが軽量化できるからだ。

気筒数を少なくすれば、エンジンのサイズが小さくできるので、軽量化が果たせる。車の中で重たいパーツであるエンジンの軽量化は運動性能の向上に直結するからだ。

2つ目は、排気干渉をおこさないためだ。

4気筒エンジンにすると、排気干渉が起きてしまって、パワーを出しにくい。また排気干渉が起きると、エンジンのレスポンスが下がってしまう。

これはドライバーのアクセル操作に対して、機敏な反応が求められるレース車両として大きなデメリットだ。

4気筒エンジンであっても、排気経路を分けることもできるが、これを実現するにはツインスクロールターボなどに変更しなければならず、仕組みが複雑になりトラブルリスクが増える。レース用のエンジンとしては、なるべくそういったリスクを排除したかったのだろう。

またマニアックな話であるが、エンジンの特性に大きな影響を与えるボア×ストロークは、87.5mm×89.7mmとレースエンジンでありながらも高回転に有利なショートストロークよりの設計は採用していない。

通常はボアストローク比を他のエンジンから流用して設計することが多いのだが、

このエンジンは「ラリーではどういう回転数でどのようなトルク発揮で使うか」を調査し、1から設計を始めている力の入れようだ。その結果「87.5mm×89.7mm」というボア×ストロークが採用されたのだ。

また、4気筒に対して3気筒エンジンは、エンジンの振動が大きくなってしまうのだが、クランクシャフトに1次バランサーを用いることで、振動対策を行っている。さらにエンジンマウントの位置を調整することで、振動が車内に伝わってこないようにこだわった調整がされているのも、日常使いの観点からはありがたい。

実際筆者はGRカローラやGRヤリス、GRMNヤリスに乗ったが、エンジンの振動の少なさは通常の4気筒エンジンと遜色がなかった。

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レース由来エンジンの実力

ここからは実際に筆者がGRカローラを一般道、高速道路、ワインディングで試乗して得られたフィーリングについてお伝えしたい。

想像以上のパワー

まずGRカローラに乗って驚いたのはその加速性能だ。304馬力なのだから速いのは当たり前と読者の方は思われるかもしれない。

しかし、乗ってみると2000~2010年の欧州スポーツカーの400~500馬力相当に加速するのだ。その理由はトルクバンドの広さ、ピークパワーが一瞬でるのではなく、低回転から高回転まで、どんな回転数であっても加速してくれる。

こだわりぬいて開発設計されたエンジンは、304馬力というカタログスペックから想像していた以上の加速をしてくれた。

またエンジン以外にもGRカローラの駆動系に搭載される「GR-FOUR」(多板クラッチ式アクティブ・トルクスプリット式4WDシステム)がとても良い働きをしているように感じた。エンジンが生み出すパワーを余すところなく路面に伝えて、エンジンパワーを加速力に変換するのだ。この4WDはGRカローラ専用のセッティングとなっており、S耐という国内トップクラスのレースに出場していた水素カローラのレースから得られた内容がフィードバックされたレース直系の4WDシステムなのだ。

そのため、GRカローラの車重はGRヤリスに対して340キロ重たい1,470キロなのだが、GRカローラの加速感で重さを感じることは少なかった。

このあたりは、専用の3本だしマフラーなどを作ってGRヤリスよりも約30馬力パワーアップさせた奏功のように感じた。

ターボとは思えないエンジンレスポンス

またパワーと同様に筆者が驚いたのは、そのエンジンレスポンスだ。

現在の車は排ガス規制の関係でエンジンレスポンスに優れた車の開発が非常に難しいのだ。排ガスをきれいにするためには、エンジン直後に触媒を設けなければならない、触媒とエンジンの距離を極力短くすつために、エキマニが非常に短くなり排気効率は悪くなってしまう。

さらに触媒の存在で排気抵抗は増す一方だ。そのため現在は気持ちのいいエンジンの開発が難しいのだが、このGRカローラのエンジンはとてもレスポンスがよく、ドライバーの思い通りにエンジンが吹け上がる。

このドライバーの意思に対して素早く反応してくれるエンジンがGRカローラの運転の醍醐味でもある。

またエンジンのピックアップもとても良い、それだけパワーの出ているエンジンでも、回転数が全然あがらないエンジンであっては、決して運転は面白くないだろう。

限られた職人が手組みをすることによって、緻密に組み立てられたことによって、余計な摩擦やバランス不良による抵抗がないのだろう。

エンジンは素早くレブリミットまで吹け上がっていくのだ。もう500転多く回したい。そのぐらい気持ちのいいエンジンだ。

このようにGRカローラは、様々なテクノロジーと職人の技術によって誕生した名機なのだ。

まとめ

GRカローラのエンジンはカタログスペックの304馬力以上に味わい深い名機ということがわかった。そして、その性能だけではなく開発ストーリーや職人の技術といった魅力も味わえる大人のスポーツカーだ。

また実際に味わえるフィーリングも現代の厳しい環境規制を満たすなかで、とても良いエンジンということがわかった。

まさに、GRカローラは、1台で全てを行える究極のスポーツカーとも言える。家族がこの車1台を所有していれば、ワインディングロードやサーキットでのスポーツ走行も存分に楽しむことができる。GRヤリスなどと比べても、座席や荷物スペースが広く、乗り心地も非常に良いため、家族全員が快適に移動できる。

購入を悩んでいる方は、中古車での購入を考えるか、抽選販売の再開を強く願って欲しい。

また、おもしろレンタカーではGRカローラやGRヤリスのレンタルを行っている。憧れの車を好きなだけ乗り回せる。

GRカローラ以外にもR34GTRやRX7をはじめ、数々の名車を借りられるので車好きの人は必ずチェックして欲しい。