トヨタは、2026年の4月をもって「スープラ」の生産を終了することを発表した。この知らせを受けて、日本国内だけでなく世界のスポーツカーファンは大きなショックを受けたことだろう。
「トヨタ・スープラ」としては、「セリカXX」の輸出モデルだった初代の誕生した1978年から2002年に4代目の「A80型」が生産終了するまでの24年間、トヨタを代表するスポーツモデルとしての地位を守ってきた。
そして2019年に、17年の時を経て「スープラ」の車名が復活し、スポーツカー業界を賑わした。ここでは、のべ58年の間引き継がれてきた「スープラ」の最終モデル「A90型・GRスープラ」の生産終了について、その足跡を振り返りつつ解説していこう。
GRスープラ(A90型)の足跡を振り返る

現行の「A90型・GRスープラ」は、トヨタのスポーツカー専門ブランド「GR」のフラッグシップとして君臨するモデルだ。生産終了の話に行く前に、現行「A90型」のアウトラインと「スープラ」の歴史を見ていこう。
GRスープラ(A90型)とは?
「A90型・GRスープラ」は2019年に発売されたモデルであり、2002年に前モデルの「A80型」が生産終了して以来、17年ぶりに「スープラ」の名を冠して復活を遂げた。
企画が動いたきっかけは2012年に「BMW」と技術提携を結んだことで、当初はいろいろなプランを検討していたようだが、「トヨタ・86」の成功を追い風にピュアスポーツを作りたいという流れが生まれ、それならトヨタを代表するスポーツモデル「スープラ」しか無いとなって、プロジェクトが具体的な形を帯びた。
どのようなクルマにしたいかという骨子はトヨタが提案して、それを実現するプラットフォームなどの設計は「BMW」に託された。ベースのシャーシがカタチになったあとのキャラクターづくりはトヨタとBMWそれぞれ個別におこなっているので、「Z4」とは構成を共用しているがセッティングが異なるため、乗り味は別物に仕上がっているのである。
このプロジェクトでは理想のスポーツカーを目指して車体のディメンションをイチから組み上げるため、専用のプラットフォームが構築されている。最大の特徴は“ホイールベース・トレッド比(W/T)”をハンドリングの黄金比とされる1.6以下に設定したことで、それに伴い乗員構成は2シーターとなった。
2シーターに割り切ることでエンジン搭載位置に自由度が生まれ、理想値といわれる50:50の前後重量配分を実現している。また、シャーシとボディの剛性はレースマシンのレベルとされている。オープンボディのZ4で充分な車体剛性を達成する設計がおこなわれたため、ルーフ有りの「スープラ」では「レクサス・LFA」以上の剛性を獲得している。
エンジンは、「スープラ」と名乗るからには直列6気筒だろう、という想いを開発陣もファンと共有していたため、採れる選択肢の中からBMW製の「B58B30-M1型」を採用。このユニットは2998ccのDOHC・直噴仕様で、BMW独自のツインスクロール機構を持つターボチャージャーが組み合わされ、340ps/51kgmという大パワーを発生する。
併せてもう少し気軽に楽しみたいという人向けに4気筒モデルも用意。こちらは1998ccのDOHC・直噴ツインスクロールターボエンジン「B48B20型」で、低出力版の197ps仕様と高出力版の258ps仕様の2種類が用意される。
トランスミッションは当初8速ATのみという設定だったが、後に「RZ」グレード用に6速MTが追加された。サスペンションは、BMWが熟成させてきたF:マクファーソンストラット/R:マルチリンクという構成を採用している。
インテリアは「Z4」とはまるで異なるテイストの独自のデザインが採用されていて、乗り込んだ印象も外観同様にまるで別の車両に仕上がっている。ちなみに目に見える部分で「Z4」と共通なのはドアミラーとドアノブくらいで、ほとんどの部分が専用デザインで構成されている。
スープラ58年の歴史を振り返る
「スープラ」の歴史を初代から現行までざっと振り返ってみよう。
- 初代「A40型/50型」(1978〜1981年)
セリカの上位モデルとして、直列6気筒の「M型」エンジンを搭載して誕生。国内版は「セリカXX」で、輸出版の車名が「スープラ」となる。
- 2代目「A60型」(1981〜1986年)
2代目となり「XX(スープラ)」として認知が高まり人気も上がったが、この代まではまだ「セリカ」の名が付いている。
- 3代目「A70型」(1986〜1993年)
シャーシ共有を「セリカ」から「ソアラ」に切り替え車格がアップしたのを機に独立し、国内外の名称を統一して「スープラ」と名乗ることになる。
- 4代目「A80型」(1993〜2002年)
「THE SPORTS OF TOYOTA」のキャッチコピーを体現させるべく、シャーシ、エンジン、サスペンション、外観デザインのすべてを刷新し、世界でも戦える戦闘力を獲得した。トップグレードに搭載される3Lツインターボの「2JZ-GTE型」は、チューニング界隈も含めて“最強ユニット”として広く認知されていた。
・GRスープラ(A90型)のバリエーション
グレード分類は3種類とシンプルな構成となっている。
- “RZ”— トップグレード/3Lの直列6気筒ターボエンジン搭載/19インチホイール/大径ブレンボ製ブレーキ/アルカンターラ内装
- “SZ-R”— 4気筒版の上位モデル/2Lの高出力版直列4気筒ターボエンジン搭載/18インチホイール/アルカンターラ内装
- “SZ”— 4気筒版の下位モデル/2Lの低出力版直列4気筒ターボエンジン搭載/17インチホイール
特別仕様車:
- ローンチ・エディション(2019):1500台限定の北米専売仕様/アブソリュートゼロ・ホワイト、ノクターナルブラック、ルネッサンス・レッド2.0の3色のボディカラーを用意/専用の赤いドアミラーカバー/専用19インチホイール
- A91 エディション(2020):1000台限定の北米専売仕様/ピストンやタービンなどに手を加えた強化エンジン搭載/ブレース追加によりボディ剛性を強化/ボディカラーに専用設定の「リフラクション(ブルー系)」と「ノクターナル(ブラック系)」を用意/専用リップスポイラーやカラーアレンジをあしらう
- ホライゾンブルー・エディション(2020):100台限定の日本専売仕様(おおむね“A91 エディション”の日本仕様)/ボディカラーに特別設定色の「ホライズンブルー」を用意
- 35th アニバーサリー・エディション(2021):「RZ」と「SZ-R」に用意された各グレード35台限定の特別仕様/35周年記念カーボンオーナメント/19インチ鍛造ホイール(マットブラック)/特別色 他
- マットホワイト・エディション(2022):50台限定の日本専売仕様/特別色“マットアバランチホワイトメタリック”他
- プラズマオレンジ100・エディション(2023):「GR Supra GT4」生産100台到達記念の100台限定モデル/特別色“プラズマオレンジ”他
- 45thアニバーサリー・エディション(2023):北米市場での「A40型セリカスープラ」発売45周年を記念した900台限定の北米専売仕様/大型のリヤウイング/特別色“ミカンブラスト”他
- A90ファイナル・エディション(2024):生産終了前の最終特別仕様車/世界で300台限定/441psに強化されたエンジン/KW製サスペンション/強化ブレーキ/前後ブレースによる剛性強化/専用設計のカーボン製エアロパーツ/カーボン製フルバケットシート 他
- GR Supra GT4(2020):GT4カテゴリー向けに競技専用のチューニングや軽量化、パーツ装着が施された車輌/よりパフォーマンスを高めた“EVO”“EVO2”も用意される
生産終了の理由とその経緯

公式発表で2026年の春(4月)に生産を終了するとアナウンスされた「A90型・GRスープラ」。ライバル的存在の「日産・GT-R」も2025年の8月で生産終了しており、いよいよ本格スポーツカーの存続が危ぶまれる状況が目の前に迫ってきたという感がある中で、その生産終了の理由についてさまざまな憶測が飛んでいる。
入手できる情報を元にその真意を探ってみたい。
実際は衝突安全性強化の流れやBMWとの契約満了などが要因
この生産終了の背景には、環境負荷を低減する“カーボンニュートラル”などの取り組みを強化する世界的な流れがある。
国によって方針に差はあるが、EV化を積極的に進める流れが未だメインストリームであり、実際に2035年に実施される予定の欧州の環境対応政策に対して、高性能な内燃機を搭載するスポーツカーの規制適合はかなり困難だという予測が主流となっている。
また、自動運転を含む安全性強化の流れも、スポーツカーにとっては高いハードルとして立ちはだかっており、それらをクリアしながら魅力的なスポーツカーを成立させるのが困難というのが実状のようだ。
また、「A90型・GRスープラ」はBMW系の「マグナシュタイア」で生産されており、その契約が終了するタイミングであることも、理由の一つとなっている。実際に「Z4」も同時期の生産終了を発表している。
復活はあり得るか?

生産終了が世界的にも惜しまれている「A90型・GRスープラ」だが、復活の見込みはあるだろうか?
復活の可能性を示す要素を探してみる
復活の可能性が見出せる要素としては、トヨタがスポーツカーの展開を続けているという点が挙げられる。弟分の「GR86」は次期モデルへのモデルチェンジを間近に控えているし、「GRカローラ」や「GRヤリス」の評判や販売成績は好調のようだ。
また、8月には次期「LFA」と目される「レクサス・スポーツコンセプト」が発表された。やや希望的観測が強いかもしれないが、このまま“モリゾウ”の指揮の下、「GR」の戦略が継続されるなら、近い将来「THE SPORTS OF TOYOTA」としての「スープラ」復活は十分にあり得ると言ってよいと考えられる。
まとめ

50年以上の歴史があり、世界的に見ても多くのファンを抱えている「スープラ」だけに、その復活を望む声は少なくないだろう。きっとトヨタの経営陣にもその声は届いているはずだ。
近い将来に復活を願い、それまでは現行の「GRスープラ」のパフォーマンスを味わっておくべきである。