スバル・CVTへのこだわり

スバルといえば国産車メーカーの中でもこだわりのクルマづくりが評価されている代表格だろう。20年も昔なら、「運転を楽しむならMT」という意見も通用したが、AT限定免許の取得率が70%を超え、生産される乗用車の98%がAT仕様という状況では極めてマイノリティであると言わざるを得ない。

そんな状況に対して各メーカーは独自にATを開発してきたが、マニアックなスバルの出した答えが「CVT」という選択肢だった。ここではスバルが「CVT」にこだわっている理由についてすこし掘り下げていこう。

スバルがCVTにこだわる理由 

AT(オートマチックトランスミッション)のジャンルには、オーソドックスなステップ式や変速をクラッチの自動制御でおこなうDCTなどがあり、それぞれにメリットとデメリットを持っている。

スポーツ性能とのマッチングの良さで見れば、変速が速く駆動ロスも少ないDCTが良いとされてきたが、近年では多段化したステップ式ATの進化も目まぐるしく、変速速度も拮抗してきている。そうしてそれぞれが欠点を解消しメリットを高めていく中で、以前ほど大きな差がなくなってきているため、明確な選択理由も薄れてきている印象を受ける。

そして、単に機構的な優位性を推すのであれば、CVTのメリットの第一位は省燃費性能にあると言っていいだろう。また構造的に、大きなトルクの瞬間的な変動に弱いという特性もあるため、ハイパワーなAWDスポーツ車への適応には小さくない課題があった。

そう考えると、スバルの持ち味であるスポーツ性の高さとは相性が良いとは言えないが、

スバルは長年をかけて開発をおこない、高い完成度のCVTを外注ではなく自社生産で実現している。そのデメリットを押してまでスバルがCVTにこだわる理由とはどのような理由であるのか、主な要素を挙げてみる。

水平対向エンジンという資産を最大限活かすため

スバル車の大きな柱のひとつが水平対向のボクサーエンジンだ。当時のスポーツ系フラッグシップのインプレッサやレガシィの高性能バージョンをイメージリーダーとして、ファミリー向けのセダンクラスにまでこのボクサーエンジンを採用しているスバルは、間違いなくボクサーエンジンのイメージが定着している。

これを販売戦略に巧みに活用し、現在まで成功を収めているが、実際のところ、縦置きエンジンのFFまたはAWDというラインナップを採用しているメーカーは極めて少ない。つまりは、その高性能なエンジンの出力をタイヤに伝える駆動系についても、独自に用意しなければならないということになる。

GT-Rなどの高価な車種ならコストを掛けて専用のトランスミッションを用意することも可能だが、スバルの場合は、ほぼすべての車種に装着可能でなければならない。また、AWD用の前輪駆動機構を縦置きボクサーエンジンに合わせるために、独自の設計が必要になるという点も問題になる。

前輪駆動用の分配機構をエンジン下に置くスペースが無いため、トランスミッションの最前部に収めなければならないのだ。これらの点がネックとなり、ステップ式ATもDCTも選ぶことができなかったようだ。

しかし、このように消去法で選択されたCVTであるが、そこはこだわりを持つスバルらしい対応である。開発には短くない時間が必要だったが、大パワーに耐え心地よい変速特性が求められる高性能スポーツ系から燃費重視のファミリーセダンまで、幅広く対応可能な高品質なCVTを完成させた。

その結果、世界有数のCVTメーカーとして、その分野での地位を確立している。

来るAT主体+モーター駆動への対応

CVTの機構的な優位性のひとつに、駆動軸方向のコンパクト性、つまり、収めるための長さが最小限で済むという点が挙げられる。これは、モーター(ジェネレーター)を駆動軸に組み入れるハイブリッド車のトランスミッションには多大なメリットとなる。

そのため、ストロング系のハイブリッド車では、変速機にCVTを選択しているメーカーは多い。スバルでもHEVやPHEVへのシフトを念頭に置いた展開を考え、CVTの活用を推していく方針を組み入れて、開発を進めているものと考えられる。

スバルCVTの歴史と種類

スバルは、1984年に世界で初めてCVTの実用化を発表したメーカーであり、現在でもオートマチックトランスミッションの主軸として活用している。

そのスバルのCVTの歴史を、簡単に振り返ってみる。

ECVT(1984〜1997年)

スバルは、1984年に軽自動車「ジャスティ」の1グレードとして発売を開始し、1987年に世界初のCVT搭載車を発売。プーリーを繋げるベルトには“プッシュベルト”と呼ばれる、鋼板の薄板を平ベルトで束ねる方式を採用。

まだ機構的に大トルクには対応できなかったため、軽自動車への投入に留まる。発進時の動力断続機構には、ステップ式ATに採用されるトルクコンバーターではなく、独自開発の“電磁粉体クラッチ”を採用している。

i-CVT(1998〜2011年)

日産系のトランスミッションメーカー「ジヤトコ」との共同で開発された、「ECVT」の後継モデル。金属ベルト式を引き続き採用して、各部をブラッシュアップさせたもの。

大きな変更点は、操作時の違和感や耐久性に難があった“電磁粉体クラッチ”に代わって、ロックアップ機構付きのトルクコンバーターを採用した点。これにより、ステップ式ATと同様のクリープ現象が起こせるようになった。

リニアトロニックCVT(2009年〜)

スバルは2009年に、いよいよ高出力エンジンに対応する駆動伝達性能を備えたCVT「リニアトロニックCVT」を開発・投入した。初搭載された車種は5代目の「レガシィ(BH型)」で、それ以降、高性能CVTの代名詞となっている。

リニアトロニックとは?

最大の特徴は、駆動伝達ベルトに“金属チェーン”を採用している点である。既存の多くのCVTが採用している“金属ベルト”は、耐トルク性は確保できるものの、曲げの最小半径が小さくできないという欠点を持っているため、ベルトの“最少巻き掛け半径”に壁があり、コンパクト化と変速範囲を広げることのネックとなっていた。

チェーン式はピンでプレートを留める構造によりコマ間では大きな角度で曲げることができるため、この問題を一気に解決している。欠点は作動音が大きい点であるが、素材や構造、表面処理等の工夫により、それも抑え込んでいる。

リニアトロニックCVTの特徴

リニアトロニックCVTの特徴を要点を挙げると、

  • コンパクト性
  • 広い変速比の幅
  • 高い伝達効率
  • 耐トルク性の高さ

であり、これらのすべてに金属チェーンが貢献している。

また、エンジンからの駆動の断続には独自のロックアップ機構を装備したトルクコンバーターを組み合わせている。これは発進時や変速時など、トルコンを作動させなくてはならない時間を最小限に留めて、ほぼ全域でロックアップさせているのが特徴で、これによりシャープな動作感が得られるというもの。

リニアトロニックCVTの種類

高容量(TR690型)

2009年に登場した最初の「リニアトロニックCVT」。後に生まれた中容量型と区別するため「スポーツリニアトロニック」と呼ばれる。

最大許容入力トルクは400N-mを誇り、WRX S4に搭載の「FA20F型(1998cc水平対向4気筒 直噴DOHCターボ)」エンジンのパフォーマンスをも支える。変速比幅(レシオカバレッジ)は初期の6.3から後期の6.9まで改良されている。

中容量(TR580型)

登場は2011年で、ハイパフォーマンス車向けの高容量「T690型」をベースにコンパクト化と軽量化を図って、燃費性能を重視する車種に対応させた第2世代モデル。

具体的には全長が100mm短くなり、重量は15%軽量化されていて、中の部品も8割が新設計となっている。最大許容入力トルクは250N-mのタイプと300N-mのタイプの2種がある。変速比幅は初期の6.3からはじまり、後期型では8.1まで拡大されている。

HV対応型(TR580(HV)型/TH58型)

中容量の「TR580型」をベースにセカンダリープーリー側にモーターとクラッチを追加し、マイルドハイブリッドの「e-BOXER」に対応させたモデル。2013年に登場。

SPT(スバルパフォーマンストランスミッション)

ザックリ言ってしまうと、高容量「TR690型」(後期型)をベースに、スポーツ特性を引き立たせたモデル。マニュアルモードの変速段数を6段から8段に増加。

油圧系を強化し、変速速度がシフトアップ(2速→3速)時で30%、シフトダウン(3速→2速)時で50%速くなっている。減速動作を検知し、ブリッピングを伴うシフトダウンを自動で実行する演出が加えられている。

まとめ

こうして1984年から40年以上にわたって改良と進化を重ねてきたスバルのCVTは、高トルクへの対応の難しさや“ラバーフィール”などの欠点を徐々に解消させ、今では完成の域に近付いているという印象を受ける。

実際に現行の「WRX S4」では「もうMTは要らないのでは?」という発言が聞こえてくるほどの高い評価を得ている。しかし一部では、「もう数年でスポーツ系のCVTは廃止になる?!」という噂も流れているため、スバルの誇る最高性能のスポーツワゴンとCVTの組み合わせを味わえる時間は、そう長くはない可能性もある。