マツダ・ロータリーエンジンの歴史

2013年に最後のロータリーエンジン(以後RE)搭載車である「RX-8」が販売終了したが、それから12年が経過した現在でもやはり「マツダ」といえば「RE」というイメージを持っている人も多いだろう。

実際に「マツダ」では2013年以降も「RE」の研究開発は継続しており、水素燃料の「HYDROGEN RE」や、「RX-7」の後継と目されるRE搭載スポーツ「ICONIC SP」の発表をおこなっている。

そして2023年にはハイブリッドシステムに向けた発電用エンジンとして「RE」を活用した「Rotary-EV」を発表して、まだまだ「マツダ」のアイデンティティとしての「RE」を推していく姿勢を示した。ここでは、そのマツダの「RE」の歴代モデルに注目して紹介していこう。

マツダがロータリーエンジンに懸けた理由

そもそも、マツダが「RE」に社運を賭けようとする理由はいったい何だったのだろうか?その理由に迫るためには1961年にまで遡らなくてはならない。1961年に当時の通商産業省が、林立する中小の自動車メーカー同士のつぶし合いを避けるために、自動車産業への新規参入を制限する方針を発表したのがそのきっかけになる。

東洋工業(マツダの前身)は「オート3輪」のスマッシュヒットで地元の商業の発展にはなくてはならない存在だったが、乗用車市場には、ようやく軽自動車の「R360」を発売したばかりで、これから本格的に市場に打って出ようとしていた東洋工業にとっては、参入のチャンスを逃してはならない状況だった。

そのタイミングでドイツの「NSU」が「ヴァンケル技師」と共同で開発した「RE」のライセンス事業を展開すると発表する。後がないという切迫した状況下の東洋工業はそれに飛びついた。世界が注目する「RE」のライセンスとあって、「NSU」は強気の条件を提示したが、マツダはそれを許諾した。

しかし、その技術は欠陥だらけの未完成なものだった。「NSU」から送られてきたプロトタイプは、性能こそ画期的なものだったが、ベンチにかけて数時間でブローするような、耐久性に難を抱えたものだった。

しかし、社運を賭けた投資をおこなったマツダは後に引けないため、何とかしてそれをモノにしようと血眼になって対策をおこなった。その結果、1966年になってようやく解決の目処が立ち、市販に向けて光明が差したというわけだ。

量産時点では、ほぼすべてが「NSU」のプロトタイプとは異なるオリジナルのユニットとなっていた。ちなみに本家の「NSU」は1964年に市販化されたが、欠点の克服は不完全で、間もなく消えていった。

マツダ製ロータリーエンジンの変遷と特徴

ここからは、マツダの「RE」の歴代モデルをザッと紹介していこう。

初代10A型(1969〜1970年)

「コスモ・スポーツ」に搭載されてデビューした、記念すべき国産初の量産「RE」。最初の量産タイプのため、気密を確保するシール類はやや過剰な構成になっている。排気量は1ローターあたり491ccを2枚連ねた982cc。ハウジング幅は60mm。

外側のローターハウジングはアルミダイカスト製で、ローターの摺道面にクロムメッキを施して摩擦低減を図っている。サイドハウジングもアルミ製で、こちらの摺道面には炭素鋼を溶射して潤滑製を確保。5年の歳月をかけて耐久性を確保したアペックスシールは、カーボン材にアルミを染みこませたもの。

吸気はサイドポートで排気はペリフェラルポート式。出力は、初期型は110psでスタートし、コスモ・スポーツの後期モデルでは128psまで向上している。レース仕様では、吸排気共にペリフェラルポート式として最高224psまで絞り出していた。

12A型(1970〜1985年)

当時の自動車税制度の小型車の枠に収めつつ、最大の出力を確保するために、「10A型」をベースに厚みを10mm拡大したタイプ。排気量はレシプロ換算(×1.5)で1719ccとなる1,146 cc (573 cc x 2)とした。

北米の排気ガス規制に対応させるため、炭化水素(HC)の排出低減対策として排気管内に二次エアを供給し、有害成分を再燃焼させるサーマルリアクター方式の「REAPS」を採用している。

ローターハウジングの摺道面(トロコイド面)には、鉄を溶射したうえでクロムメッキを施すことで耐久性を向上。ポートは吸気がサイドで排気がペリフェラルポート式。出力は120〜130psでバリエーションが分かれている。

12A-T(1982〜1990年)

「12A型」をベースにターボ化したモデル。当時は環境対応が求められていたため、パワーを稼ぐというより燃費向上のための過給装置装着だった。出力は165ps(後期)へと向上。

13A型(1969〜1970年)

FF方式の「ルーチェロータリークーペ」専用として開発されたレアな機種。FF用途の縦置きレイアウトのため、ハウジングの厚みを増やす方法ではなく、「10A型」の厚みのままで、偏心量と創成半径を拡大することで排気量を増加させた。

マツダの「RE」シリーズでは例外的に創成半径が120mmのモデルとなっている。特殊な設計でコストがかさんだことに加え、新設計の熟成不足による信頼性低下が原因で、このモデルのみという短命に終わった。

13B型(1973〜1981年)

「12A型」の上位モデルとして、5ナンバーの2000cc以下の枠ギリギリに収めるため、ハウジングの厚みを10mm拡大して1308cc(654 cc × 2)としたユニット。「13A型」とは構成が異なるが、排気量(約)1300ccの2番目に開発されたモデルということで「13B型」となる。

アペックスシールの材質は特殊鋳鉄となり、側面分割の2ピース方式を採用。出力の向上に伴い、ローターハウジングはトロコイド面に高張力の帯状鋼板を鋳込んで耐久性を確保している。ポートは吸気がサイドで排気がペリフェラルポート式。出力は130~140ps。

13B-SI型(1983〜2002年)

「RE」ならではの、2つのローターの間で発生する吸気の圧力派と反射波を利用して、吸気充填効率の低い領域で過給効果を発揮する「スーパーインジェクション」を採用したモデル。

13B-T型(1985〜1992年)

2代目「RX-7(FC3S型)」のために“ツインスクロールターボ(インタークーラー付き)”を装着してパワーの向上が図られたモデル。出力向上にともない、アペックスシールを薄板化&3分割とするなど、各部に改良が施されている。

出力は前期のレギュラーガソリン仕様で185ps、後期のハイオク仕様で215ps。

13B-REW型(1991〜2002年)

3代目の「RX-7(FD3S型)」に搭載された、歴代最高出力のモデル。「13B-T型の」“ツインスクロールターボ”を発展させたカタチの“シーケンシャルツインターボ”を採用し、大幅な高出力化を図っている。

初期は255psだったが、最終的には当時の自主規制いっぱいの280psを発揮した。出力向上にともない、アペックスシール取付部の溝にレーザー焼入れを施したり、ローターハウジング摺道面に硬質クロムメッキとグラファイト溶射コーティングを施すなど、さらなる出力効率の向上と信頼性アップを図っている。

RENESIS(2003〜2012年)

「RX-8」に搭載の、NAながらターボモデルに迫る250psの出力と低燃費性能を両立させたモデル。構成は654 cc × 2を守りながら、排気ポートを従来のペリフェラルポート式からサイドポート式に変更。

吸気と排気のオーバーラップを無くすことによって、吸気ポート設計の自由度が大幅に増すことで高い出力が得られるようになると共に、排気に引かれて排出される吸気のロスを防ぐことで燃費の向上も両立している。

吸気経路には「スーパーインジェクション」の理論を活用する設計を盛り込み、低速のトルクと高回転域の伸びを得ている。ローターは地道な設計の詰めによって5%軽量化。これによりローターの振れによる振動やフリクションロスが低減し、高回転域のスムーズ化を実現する。

吸排気のサイドポート化にはローターの改良が不可欠で、特にサイドシールの形状および配置の変更が効果を発揮している。

20B-REW型(1990〜1996年)

2ローターの「13B-REW型」に1ローター追加して3ローター化したモデル。2ローターでもモーターのようなスムーズな回転フィールとされていたが、3ローターではレシプロのV12気筒に匹敵するなめらかなフィーリングが得られる。

出力も単純計算で1.5倍近くが見込めるため、理論上は400psが狙えるが、吸排気や熱の問題の制約から、設計段階では330ps程度を目標値として設定していた(市販時は自主規制の280ps)。燃費はマツダの「RE」史上で最悪の値で、実測値で2km/Lを下回る結果も報告されていた。

8C-PH型(ハイブリッド・2023年〜)

マツダ初の量産EVとして開発された「MX-30」の目玉パワーユニット「Rotary-EV」で「RE」が復活。動力用としてではなく、あくまでも発電用として新設計された830cc×1 の直噴ユニットとなっている。単体では53kW (72ps)の出力で発電をおこない、125kW (170ps)の「MV型」モーターが動力となる。

まとめ

現在は、ハイブリッド用の「8C-PH型」のみが現役のユニットとなっているが、バイオ燃料やe-fuelなどのカーボンニュートラル燃料、メタン、水素など、さまざまな燃料を使用することが可能な点を活かすべく、縦置きの2ローターユニットの開発を示唆する発表もおこなっているため、「ICONIC SP」の実車版登場も含めて期待しておきたい。