夢の技術!?可変圧縮比エンジンについて解説

クルマのエンジンは、時間の経過とともに進化し、環境問題や脱炭素化が進んでいる現在でも進化を続けている。しかし、いくら技術が進化しても、依然として解決が難しい問題もある。そのひとつがエンジンの圧縮比の限界点だ。

クルマのエンジンの圧縮比は高くなるほど熱効率が向上するが、圧縮比を高くしすぎると自然着火や異常燃焼などが発生してしまう。逆に圧縮比が低いと、熱効率が低下し、燃費が悪化する。このようなジレンマを解決する技術が可変圧縮比エンジンだ。今回は可変圧縮比エンジンがどのようなエンジンなのか解説する。

可変圧縮比エンジンとは?

出典:Nissan Global Newsroom

可変圧縮比エンジンとは、文字通り圧縮比を変えることができるエンジンだ。

一般的なエンジンは、エンジンを開発する段階で圧縮比が決まるが、その圧縮比から変えることができない。しかし、可変圧縮比エンジンは、エンジンの圧縮比を連続的に変えることができる構造を持つエンジンだ。

例えば、日産が量産化したVCターボエンジンでは、ピストンの上死点および下死点の位置を連続的に可変させるマルチリンク機構により、圧縮比を変化させている。

日産 エクストレイルに搭載される1.5L直列3気筒ターボエンジン(VCターボエンジン)のカタログを見てみると、圧縮比が8.0〜14.0となっていて、可変圧縮比エンジンであることがわかる。

エンジンのスペックは、最高出力が106kW(144PS)/4400-5000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgfm)/2400-4000rpmで、ダウンサイジングターボらしい力強い特性である。しかし、エクストレイルに搭載される可変圧縮比エンジンは、あくまでも発電用。駆動方式は、「e-POWER」(モーター駆動)となる。

そのため、エクストレイルでは可変圧縮比エンジンの真の実力を知ることが難しいといえるだろう。

エンジンの圧縮比はエネルギー効率の高さ

クルマのエンジンの圧縮比は冒頭でも触れたとおり、熱効率や燃費などに大きく影響する。

シリンダー内のピストンの往復運動によって動力を発生させるエンジンは、ピストンがシリンダーの最上部に到達したタイミングで点火され、燃料が爆発することでピストンが押し下げられ、シリンダー最下部に到達した後、再び上昇するという動作を繰り返している。

このシリンダー内のピストンが最下部のときのシリンダー容量と最上部に到達したタイミングのシリンダー容量の比率が、今回のキーワードとなる圧縮比だ。

例えば、ピストンが最下部のときのシリンダー容量が100ccで、ピストンが最上部のときのシリンダー容量が10ccのエンジンの場合、圧縮比は10:1となる。

この圧縮比の数値が大きくなる(12:1や14:1など)ほど、爆発したときに生み出すエネルギーは大きくなる。つまり、少ない燃料でより多くのエネルギーを発生させることができるということだ。しかし、圧縮比が高すぎると、ピストンで圧縮された空気の発熱により燃料に自然着火したり異常燃焼を起こしたりしてしまう。

逆に圧縮比の数値が小さくなる(8:1や9:1など)と、自然着火や異常燃焼は起きなくなるが、エネルギーを発生させる効率が下がり、燃料の消費量が増える(燃費が悪くなる)。

つまり、エンジンの出力を上げたり燃費性能を向上させたりしたい場合は、圧縮比を高くすることがポイントになるということだ。

可変圧縮比エンジンは“いいとこ取り”のエンジン

エンジンの理想的な圧縮比(圧縮比の限界点)は、エンジンの負荷に応じて変わる。例えば、80km/hで高速道路を定速走行しているときなど、エンジンに入る空気の量(吸気量)が少ないときは、圧縮比の限界点が高い(高圧縮比向き)。

逆に、アクセルペダルを踏み込んで吸気量を多くし、エンジンに高い負荷がかかる状態になると、圧縮比の限界点が低くなる(低圧縮比向き)。特に、過給機が付いているエンジン(ターボエンジンなど)は、加速時など高い負荷がかかっている時の圧縮比の限界点がさらに低くなる。

このようなエンジンのかかる負荷に応じてエンジンの圧縮比を理想的な状態に保つのが、圧縮比を変えられる可変圧縮比エンジンである。

可変圧縮比エンジンを一言で説明するなら、「エンジンが最も効率よくエネルギーを発生させられる理想的な圧縮比にするエンジン」ということだ。もっと簡単に言うのであれば、高圧縮比エンジンと低圧縮比エンジンの長所を両立させたエンジンということになる。

カタログに記載されている「圧縮比」に注目してみるとエンジンの特性が見えてくる

出典:Nissan Global Newsroom

クルマのカタログには、エンジンのスペックが事細かに記載されている。カタログのエンジンスペックを注意深く見てみると、「圧縮比」という項目がある。この圧縮比が高いほど高圧縮比エンジンであることを意味するのは前述したとおりだ。

このように、圧縮比の数値の意味を理解しておけば、カタログのエンジンスペックに記載されている圧縮比の数値を見るだけで、圧縮比の高い高効率エンジンか、ターボなどの過給に対応するため圧縮比を低くしているエンジンかが判断できるようになる。

エンジンの特性や効率の良さを知るひとつの指標としてエンジンの圧縮比を見てみると、クルマやエンジンに対する理解がより深まるだろう。今後、カタログを見るときは、ぜひ圧縮比にも注目してもらいたい。

圧縮比に対する理解が深まったら乗って体験してみよう

出典:Nissan Global Newsroom

クルマの動力性能にも影響するエンジンの圧縮比の違いは、実際にクルマを走らせて、加速や巡航などをして初めてわかる。

ここまで解説してきたことを踏まえて、効率に優れる高圧縮比エンジン、効率は下がるもののパワーを得やすい低圧縮比エンジン、状況に応じて圧縮比を変えられる可変圧縮比エンジンを乗り比べてみると、思わぬ発見があるかもしれない。

さまざまな圧縮比のクルマに乗ってみたいと思ったときは、車種のバリエーションが豊富なおもしろレンタカーの利用を検討してみるとよいだろう。おもしろレンタカーでは、高性能エンジン、ハイパワーエンジン、ターボエンジン車など、さまざまなタイプのクルマを借りることができる。

この機会に、エンジンの理解を深めるためにもおもしろレンタカーを利用してみてはいかがだろうか。