車輌について調べたり、雑誌などのメディアで紹介される際に“ホイールベース”の数値を目にすることが多いだろう。この数値はそのクルマの特性や居住性を左右する有用な要素となっている。
ここではその“ホイールベース”に着目し、数値の長短によって何が変わるのかを見ていく。
ホイールベースの基本説明と、長短による効果の違い

ホイールベースとは、前後の車軸中心間の距離のことで、その車輌の運動特性や居住空間のサイズ感などを把握する目安になることから、カタログの諸元はもちろん、自動車メディアの車種紹介では外寸よりも先に記述されることが多い重要な寸法だ。
その長短で推測できる要素は2つあり、ひとつはハンドリングの特性で、もうひとつは室内空間の前後のサイズ感となる。
ホイールベースを長くする理由
ホイールベースを長くすることで得られるメリットのひとつは“操縦安定性の向上”だ。特に高速巡航時の直進安定性が向上する傾向がある。
ほとんどの自動車は前輪で舵を切って後輪が追従するという構成になっているが、ホイールベースが長い車輌は、ホイールベースが短い車輌よりも前輪を左右に切った際に車輌の向きが変わる角度が浅くなる。そのためふら付く量が少なくなり、直進時の安定性が向上するというわけだ。
直進時の安定性には、ほかにもキャスター角やトー角などステアリング周りの設定値によるところも多いが、車輌全体で見るとそういう傾向となる。これは逆に言うと小回りが効きづらいとなるので、車格や用途との兼ね合いにより、車種ごとに設定されている。
また、軸間距離が伸びれば単純にその間に収まるキャビンの前後に余裕ができるので、高級セダンやミニバンなどの乗員優先のタイプではホイールベースを長く取っている車種は多い。
日本では幅が狭い道や交差点が多いことから小回り性も重視される傾向が高いので、日常的に広い用途で使われる車種では極端に長いホイールベースは設定せずに、配置や構造の工夫で室内空間を拡大してきた傾向がある。
ホイールベースが長い車種とその理由

BMW全般
欧州のセダンメーカーを代表するドイツの3社の中でも、BMWはホイールベースが長いと認識されている。D&Eセグメントの両方でホイールベースの長さはBMW>メルセデスベンツ>アウディという構図になっている。
この傾向は外観からも汲み取ることができる。BMW車の多くは前輪がかなり前寄りに配置されていることが分かるだろう。このロング・ホイールベース&ショート・オーバーハングは昔からBMW伝統のスタイリングとされていて、すでにアイデンティティにもなっている要素だ。
その理由は、室内空間を最大限確保しつつ、回頭性をできるだけ確保するため。FR主体のBMWでは室内空間、特に後席の広さを得るにはロングホイールベースが必須となる。しかしそうなると回頭性が犠牲になるため、それを補うために前輪に大きな切れ角を取れるショートオーバーハングを採用している。
スーパーカー
フェラーリやランボルギーニなどの、いわゆるスーパーカーと呼ばれるクルマは、比較的ホイールベースが長いのが特徴のひとつ。全体で見れば室内空間優先の高級セダンには及ばないが、スポーティなハンドリング特性も重視される車種としては長いと言えるだろう。
これはその心臓部のエンジンの大きさと、MR(ミッドシップ)というレイアウトによるところが大きい。
MRでは運転席の直後にエンジンを縦に搭載するケースが多い。そうなると必然的にトランスミッションはその後ろに配置せざるを得ないため、そこにデフなどを配置する必要性から、後輪の車軸はエンジンの後ろとなる。スーパーカーには後輪が車体の後端付近にある車種が多いことに気付くだろう。
一方で車体前部には何も無いので前輪とサスペンションの配置に自由度が高いものの、乗員のフットスペースやシートのスライド量を確保しなければならないため、一定の位置より後ろにはできない。その結果、ランボルギーニではV10モデルが約2600mm、V12モデルが約2700mmとなっている。
高級セダン
ホイールベースが長いクルマの筆頭は高級セダンだろう。特にショーファーカーのジャンルでは3000mmを超える。そのなかでは比較的小さい部類になるトヨタのセンチュリーで3090mm。輸入車ではメルセデスマイバッハS560が3365mm、ショーファーカーの代表ロールスロイスのファントムは3550mmもある。
これはVIPが乗る後席の空間を最大限に取った結果に他ならない。
軽自動車
絶対的な数値は小さいものの、オーバーハングが極端に短い例として、日本の軽自動車が挙げられる。
世界でも随一といえるコンパクトな規格に収めながら、室内の空間を最大限に広げる工夫を詰め込んだ結果、ほとんどの車種が車体の4隅に車輪を配置するレイアウトになっている。
ホイールベースが短い車種とその理由

ホイールベースが長い車種がある一方で、全長に対して短い設定のクルマもある。
ポルシェ911
ポルシェの911系は意外とホイールベースが短くて驚く車種のひとつ。911といえばRR(リアエンジン&リアドライブ)が伝統的なレイアウトだが、まずこのレイアウトが縛りとなって後輪の位置が前寄りになっている。
911のアイデンティティである水平対向6気筒ユニットは車体の最後部に設置されるため、トランスミッションとデフ機構はその前に配置される。必然的に後輪の軸はエンジンの前になるというわけだ。
一般のセオリーでは直進安定性を求めて前輪を前寄りにするが、ポルシェの哲学ではハンドリングを研ぎ澄ます方向に比重を寄せたため、前後のオーバーハングが長く、超ショートホイールベースとなっている。近年のモデルではだいたい2450mmで、初代に至っては2211mmとダイハツ・コペンよりも短い。
スバル車全般
スバル車も全般的にホイールベースが短い設定になっている。これは先のポルシェと同じ理由で、水平対向4気筒エンジンをフロントに搭載するため、前輪の車軸はそれよりも後ろに配置せざるを得ない。乗員のフットスペースを確保すると、自ずと前輪の位置が決まってしまうわけだ。
フロントのオーバーハングが長いという宿命を負いながら、エクステリアのデザインを上手くまとめているデザイナーに敬意を表したい。
GRスープラ
2019年に発売された「A90型」のスープラは、国内でのショートホイールベースの代表的車種である。車格によりこれより短い車種はあるが、2460mmという数値は3Lクラスのエンジンを搭載する車種としては圧倒的に短い。
これは理想のハンドリングを求めた結果で、“走りの黄金比”と言われているホイールベース・トレッド比を1.6以下に収めるため、2シーターに割り切るなどの大胆な設計をおこなったことで実現されている。これは車格が二回り小さい初代のMR2に迫るほどに短い。
新プレリュード
基本的にFFレイアウトの車種はエンジンを横置きにしてその後ろにトランスミッションを配置することから比較的フロントのオーバーハングが長い傾向にある。
ホンダの新しいプレリュードは、クーペスタイルとして後席の実用性をある程度犠牲にすることで、ホイールベースとトレッドの比率1.6を実現している。このことによってハンドリングを絶賛する声は多い。
まとめ

以上のように、ホイールベースの数値はハンドリングや居住性の目安になるため、そのクルマの特性や方向性を見るための目安となる。しかし、ハンドリングや居住性はその数値だけで決まるわけではなく、様々な要因が絡んで、むしろそっちの要因が性格を形作っている車種もある。
そのため実際の性格や居住性については、直に触れて乗ってみるまで分からない。可能な限り実際に乗り、その違いを確かめるべきである。
