ひと昔前までの日本の乗用車界隈での欧州車のイメージというと、ハイクラス、ステータス、速い、デザインが良い、などのポジティブなものと、クセがある、よく壊れる、乗りにくい、などのネガティブなものが挙げられるだろう。
欧州と一括りにしても、国によっていろいろなキャラクターがあるのでその特色は様々だが、総じて言えるのは、日本車に比べると個性的だと言えるだろう。つまり日本車との違いを楽しむのが欧州車の魅力の部分だ。
ここでは、エンジンやサスペンション、トランスミッションというクルマの主要機関にスポットを当てて、欧州と日本の特色の違いを見ていこう。
エンジンの違い

エンジンは車の心臓部とも言える存在であり、日本車と欧州車では設計思想や性能特性に明確な違いがある。それぞれの地域が抱える道路環境やユーザーの嗜好が反映されたエンジンの特徴について詳しく見ていこう。
日本車のエンジンの特徴
日本車のエンジンは、限られたスペースや環境性能を重視した設計が特徴である。小排気量でも効率的にパワーを引き出す技術力は世界的に評価されており、経済性と信頼性の高さが魅力とされている。
小排気量
日本は国土の面積の関係などから、北米などに比べると道路の幅が狭い傾向がある。特に市街地では交差点や路地が多いことから、コンパクトカーや軽自動車の需要が高い傾向にある。
そのため、1600cc以下の小排気量エンジンの開発に力を入れているメーカーも多い。全体が豊かさを求めていた2000年くらいまでは性能やグレードの高さにプライオリティが置かれていた。そのため、ターボなどの過給器の装着や、小排気量ながらも4気筒やツインカム方式の採用が高く評価されていた。
しかし、燃費や環境負荷が叫ばれるようになってからはその流れに変化が起き、効率やトータルのコストが優先される傾向になり、ロープレッシャーターボや3気筒エンジンが主流になりつつある。特に低燃費と高出力の両立においては、世界的にもトップレベルの技術を有している。
中・大排気量
1600〜2400ccの中排気量帯は、国産車のエンジンにおいて中核をなす存在で、ファミリーセダンからミニバン、SUVやスポーツ系車種など幅広く採用されている。最も多いのは直列4気筒タイプで、走行性能に直結するトルク特性やスムーズさに優れている。
高性能タイプ
国産スポーツモデルを代表するライトウエイト車には、1600〜2000ccの高回転・高出力型直列4気筒エンジンが採用され、高い性能と共に伸びやかで官能的なフィーリングが支持されている。また、スポーツ系車種の上位モデルに搭載される6気筒ユニットでも世界最高水準の性能を発揮するユニットは多くある。
メーカー間のパワー競争が激化していた1990年代に登場した直列6気筒ターボエンジンには、世界的に名機と認められたモデルもいくつか存在する。
欧州車のエンジンの特徴
欧州車のエンジンは、長距離移動を想定したトルク型の特性や高性能化が目立つ。レース文化の影響もあり、フィーリングの良さや高回転域での力強さを重視する傾向にあるのが特徴である。
小排気量
欧州も北米に比べると国土は広いとは言えないが、それでもモータリゼーション発祥の地域とあって道幅は日本より広く設定されている国は多い。ただし、中心都市の市街地には馬車時代の名残を感じさせる狭い道路も多く、コンパクトカーが好まれる傾向もみられる。
市街地にも起伏の多い地域が多いためか、最高出力よりも低速トルクを重視する傾向があり、日本よりも少し排気量設定は大きめで、低中回転高トルク型の特性が多い。
中・大排気量
日本よりも自動車での移動に重きが置かれる傾向の強い欧州では、長距離の移動も盛んにおこなわれている。そのためハイウエイでの走行性能をしっかり確保している車種が多く、中心になる排気量は1800〜2400ccのレンジ。
高い速度域での巡航が問題無くおこなえるよう、エンジンの特性はトルク型の傾向で、高めのギア比設定によってバランスを取っている。そのため、1800ccクラスでも200km/h巡航をこなせるポテンシャルを持つユニットも少なくない。
高性能タイプ
ガソリンエンジン車の誕生とほぼ同時期にレース文化が根付いた欧州では、高性能ユニットのプライオリティも高い。1970年代までは欧州勢の独壇場であり、日本の高性能ユニットの多くはそれらの名機をお手本にしていたほど。
特にV型12気筒エンジンは古くから最高峰の存在で、スーパーカーや超高級車の心臓部として、そのクルマの格を上げる役割も果たしていた。
サスペンションの違い

サスペンションは乗り心地やハンドリング性能に直結する重要な構造である。日本車と欧州車では快適性を重視するか、安定性や操縦性を重視するかで設計の方向性に違いがある。
日本車のサスペンションの特徴
日本車は主に市街地での快適な乗り心地を重視し、ソフトな設定が基本である。近年では走行性能の向上も図られていますが、基本的には実用性重視の思想が根底にある。
大衆車
日本のクルマの足まわりをまとめると、全体的に長い期間にわたってソフトな乗り心地を目指していたと言えるだろう。道幅が狭く、都市部は入り組んだ路地もあり、ストップ&ゴーが多いため速度域が低い傾向にあるうえ、バイパスや高速道路などでもひと昔前までは最高速度が100km/hが上限とされていた。
そのため、スポーツ系車種以外ではサスペンションに大きな負荷がかかるような走行を求められる場面が少なく、バネやダンパーを固める必要性が低かったので、コストや設計リソースを乗り心地の向上に重点的に配分していた。
特に排気量が小さいコンパクトカーや大衆車クラスでは足まわりに割けるコストが少ないので、その傾向が特に顕著である。2000年代以降に増えてきた世界戦略車においてはその傾向が薄れ、日本国内向けのセッティングではあるものの、基本性能は欧州寄りになってきている。
高級・高性能車
高級車の場合、そのソフト志向が極まり、バブル期の1990年代をピークにして「まるで船に乗っているような」衝撃吸収性を極めた乗り心地に仕上げられた車種は多く、この傾向は今でも残っている。
高性能車についてもその傾向はあり、300km/hを実現する動力性能を持ったハイパワー車でも、市販状態では市街地の走行を考慮したソフト寄りのセッティングがおこなわれていた車種は少なくない。
国内専売モデルがほぼ無くなり、ニュルブルクリンクでのタイムを謳うようになった辺りからは走行性能にプライオリティが置かれ、足まわりは引き締められる傾向にある。
欧州車のサスペンションの特徴
欧州車は高速巡航やワインディングでの安定性を重視し、硬めの足回りが特徴である。走行性能を第一に考えたセッティングが多く、ユーザーからの足回りへの関心も高い傾向がある。
大衆車
欧州では、動力性能の低いコンパクトカーとはいっても山道や高速道路での安定性を求める傾向は強くあり、日本車に比べて乗り心地よりも安定性を重視する車種が多い。
そのため乗り心地は日本車より硬めになっているが、現在でも都市部には石畳の路面が多いため、細かいピッチのダンピングについては、タイヤと共にそれを抑えるセッティングになっている。
また、足まわりに対する意識がユーザー層全体で高いため、開発段階でしっかりコストを掛ける傾向もある。
高級・高性能車
高級車は大排気量のエンジンを搭載していることが多く、そのぶん巡航速度も高く設定されている。高級車としての乗り心地の良さはしっかり確保されているが、あくまでもベースにあるのは高速域での安定性を高めるという考えがあり、ソフトというよりはどっしりとした印象。
高性能車については、近年でこそマルチリンク式が主流となっているが、「ド・ディオンアクスル」などを代表に今でも日本車とは異なる方式のサスペンション形式を持った車種も少なくない。古くから盛んにレースをおこない、その現場での試行錯誤が多くおこなわれた結果かもしれない。
ミッションの違い

ミッション(変速機)は、エンジンの出力を効率よく車輪に伝えるための重要な構成要素である。変速の滑らかさや燃費性能に大きく関与するこの部分にも、日欧で明確な違いが見られる。
日本車のミッションの特徴
日本車はATの普及率が高く、特にCVTやハイブリッド対応のトランスミッションで世界をリードしている。マニュアル車においても信頼性や低コストが重視されており、合理性を追求する傾向がある。
MT
マニュアル変速のMTトランスミッションは、基本構造や設計思想は欧州のものと大きく変わらないと言ってよいだろう。構成やつくりは欧州のものと大きく変わらないと言って良いだろう。
それというのも、元々は欧州で熟成された機構を参考にして、日本の各企業がブラッシュアップされてきたという背景があるためだ。独自の設計や製造ノウハウが蓄積された1980年代以降は高い性能と低コストを両立させ、世界でもトップクラスの品質となっている。
ちなみに高性能車用のトランスミッションは、現在でも欧州の専門メーカーに設計や製造を委託したものも多い。これはコスト的な問題と、特殊用途向け機器への技術やノウハウの蓄積がまだ十分でないことによると考えられる。
AT
今や日本はオートマチックトランスミッションの世界ではトップを走っていると言っても過言ではない。ATの開発自体は後発だったが、低速でのストップ&ゴーが多く変速の頻度が高い日本の交通事情から、早期からATの開発に注力した結果、現在では技術的にも世界トップレベルに達している。
特に無段変速機構であるCVTの分野では一歩リードしている。初期に抱えていた欠点もほぼ克服され、小排気量車から、高負荷なスポーツモデルや重量級車両にまで適用可能な汎用性を備えるに至っている。
昨今ではエンジンとモーターの切り替えをともなうハイブリッド用のトランスミッションの需要が高まっていて、その分野でも日本のAT製品は高い性能と信頼性を誇っている。
欧州車のミッションの特徴
欧州車は今もなおMT文化が根強く、高性能なスポーツモデルにおいてもMTの魅力を重視している。また、DCTなどのセミオートマ機構も普及しており、走行性能を重視したトランスミッションが多く採用されている。
MT
長年にわたって、小型車から高級車、スポーツカーやスーパーカー、そしてレースマシンに至るまで様々な用途のMTトランスミッションを開発してきた欧州では、その品質はもちろん世界的にもトップレベルの製品が多い。
特に高性能車向けのトランスミッションに関しては、技術的にも製造のノウハウ的にも高く、他のメーカーへ供給している例もある。日本に比べてATの普及率が依然として低いため、リソース投入量が多く、開発コストも高くなる傾向がある。
とは言え物づくりの理念の違いからか、日本製品に比べると信頼性に課題があるともされているため、旧年式のモデルには注意が必要である。
AT
MTによる運転の楽しさが好まれる傾向がベースにある欧州は、自動車の歴史の長さに反してATの分野では後進となっている。AT先進国のアメリカから遅れること10年以上経ってから、ようやく高級車向けに自社開発のATを搭載するようになった。
しかし需要が低い大衆車クラス向けのATにはあまりリソースが割かれず、品質や信頼性もけっして高いとは言えない状態が続いた。今でも高級車向けのATは積極的に開発がおこなわれていて、多段化など先進の機構が盛り込まれているが、大衆車クラス向けの製品は目立った進化が見られないのが実情である。
一方、日本の交通事情には適さず普及が進んでいない“DCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)”が、スポーツモデル向けのセミATとして採用される流れもある。
こうした日本車と欧州車の違いを実感するには、スペックや評論だけでなく、実際に運転してそのフィールを体感するのが一番である。おもしろレンタカーでは、国産・輸入問わず多彩な車種をラインナップしているため、乗り比べを通してその違いを肌で感じることが可能である。興味がある車種があるなら、まずは実際にハンドルを握ってみてはいかがだろうか。