クルマの駆動方式には、FF・FR・RRといった、前輪または後輪のみを駆動する2WD(二輪駆動)と四輪を駆動するAWD(4WD)がある。このうち、AWDは雪道など路面状況の悪い場面で活躍するクルマと見なされがちだが、実はAWDが活躍するのは雪道に限らず、ドライ路面やセミウェット路面などの日常的な道路状況でも有効である。
実はさまざまなメリットがあるAWDだが、どのメーカーのシステムが走破性に優れているのだろうか。この記事では、AWDとは何なのか、フルタイムAWD・パートタイムAWD・トルク配分型AWDの違いなどを解説した後、走破性に優れるAWDシステムを4つ紹介する。
AWD車とは?|4WDとパートタイムAWDなどとの違いも解説

クルマのカタログなどに表記されている「AWD」とは、All Wheel Driveの頭文字であり、4つのタイヤを駆動させることを意味している。つまり、AWDは四輪駆動車(4WD)ということだ。
AWDには、フルタイムAWD、パートタイムAWD、トルク配分型AWDといった種類がある。
フルタイムAWD(4WD)は、常時四輪を駆動させる四輪駆動システムだ。パートタイムAWD(4WD)は、路面状況などによって二輪駆動と四輪駆動を使い分ける四輪駆動システム。トルク配分型AWD(4WD)は、前後輪または左右輪のトルクを変化させることができる四輪駆動システムだ。
このように、一口にAWDといっても、フルタイム、パートタイム、トルク配分型といった複数の方式が存在する。
また、四輪駆動システムの名称は、メーカーによっても異なる。代表的なのが、アウディの四輪駆動システム「quattro(クワトロ)」である。その他にも、スバルの「シンメトリカルAWD」、トヨタの「GR-FOUR」など、各メーカー四輪駆動の特徴を示す名称が使われている。
ただ、名称は異なっていても、4つのタイヤを駆動させることや、フルタイム・パートタイム・トルク配分型のいずれかに分類されることには変わりない。
各メーカーがさまざまな技術を投入して開発しているAWDは、ウェット路面やオフロード、アイスバーンや雪道など、悪路における走破性に優れているだけでなく、ドライ路面で安定した走行ができることも特徴だ。そのため近年では、雪道やアイスバーンを走行しないオーナーがAWD車を選ぶケースも増えている。
AWDの種類や特徴を理解したところで、主要メーカーが採用する代表的なAWDシステムを紹介する。
スバル「シンメトリカルAWD」
スバル独自のAWDシステム「シンメトリカルAWD」は、水平対向エンジンを中心としたパワートレインを左右対称にレイアウトし、四輪駆動を組み合わせたことが特徴である。
低重心な水平対向エンジンと左右対称にレイアウトされたパワートレインにより、前輪の左右・後輪の左右に均等に重量が配分される。また、路面状況に応じてトルクを配分するシステムを採用した四輪駆動を組み合わせることで、ドライ路面から雪道まで安定した走行を可能にしている点も特筆すべきである。
スバルのAWDの走破性は、雪道や悪路などの一般道だけでなく、過酷な環境で競うラリーの現場でも証明されている。
三菱「AWC」
三菱の四輪制御技術「AWC」(All Wheel Control)は、4つのタイヤの接地性をバランスよく最大限に発揮する四輪駆動システムだ。
三菱を代表するスポーツカー「ランサーエボリューションX」に搭載された車両運動統合制御システム「S-AWC(Super All Wheel Control)」は、「意のままの操縦性」と「卓越した安定性」を両立させるという三菱の開発思想によって生まれたAWCをより高い次元で実現したシステムである。
S-AWCは、前後輪のトルク配分・左右輪のトルクベクタリング・四輪ブレーキ制御の3つのサブシステムで構成され、これらを統合制御することでクルマの操縦性と安定性を向上させている。
また、S-AWCは、電動化されたパワートレインにも応用されている。電動パワートレイン車のS-AWCでは、前輪と後輪のそれぞれにモーターを搭載する「ツインモーター4WD」により、前後の駆動力配分を100:0から0:100まで自在に制御可能である。
三菱は、状況に応じて駆動力を配分することで安定した走行を実現する四輪駆動システム「S-AWC」を、時代の変化に合わせて進化させている。
アウディ「quatro」
アウディの四輪駆動「quattro(クワトロ)」は、最適なトルクをタイヤに配分するAWDシステムだ。クアトロには、最適なトルクを配分する四輪駆動だけでなく、後輪左右の駆動力配分を最適化するシステムもある。
アウディの四輪駆動「クワトロ」システムのひとつである「セルフロッキング・ディファレンシャル」は、電子制御を使わないメカニカルパーツで構成されているトルク配分型四輪駆動システムだ。
機械式のトルク配分型四輪駆動“セルフロッキングディファレンシャル”は、通常走行時フロント50:リア50(モデルによってはフロント40:リア60)の割合でトルクを配分するが、走行状況や路面のコンディションが変化すると、数ミリ秒以内にグリップの高い方の車軸に大きなトルクを配分するシステムとなっている。
機械式でありながら緻密な制御が可能なクアトロシステムは、オンロードではスポーティなハンドリングを、オフロードでは高い走破性を実現する。アウディの四輪駆動「クアトロ」は、今でもアウディの代名詞としても使われている。
トヨタ「GR-FOUR」
トヨタの四輪駆動システム「GR-FOUR」は、世界中の道路やサーキット、過酷なモータースポーツの現場で鍛え上げられたGRモデル専用の四輪駆動システムである。GR-FOURは、前後の駆動力を配分して制御する四輪駆動システムで、優れた旋回加速性能と四輪駆動ならではの安定性を両立している点が特徴である。
また、モータースポーツの現場からのフィードバックで得たノウハウを投入し、サーキットからダート、雪道まで、あらゆる路面状況に対応できるよう最適化されている。
さらに、前後輪のトルク配分を切り替え可能な3つの制御モードが設定され、路面状況に応じたモードを選んでスポーツドライビングを楽しめるのもGR-FOURのポイントだ。
各メーカーのAWDの特徴を知るためにも乗ってみよう!

AWD(4WD/四輪駆動)は、かつてオフロード車のための技術と思われていたが、今日では安定した走行を実現したり、スポーツドライビングを存分に楽しんだりするための技術としても使われている。
また、AWDは、各メーカーの走行性能に対する思想やこだわりが色濃く反映されたシステムである。よって、AWD車に乗ることで、そのメーカーが考える理想とする走りを知ることができる。
さまざまなAWD車やAWDのスポーツカーに乗り、各メーカーの走りの思想を体験したいのであれば、AWDスポーツモデルを多数揃える「おもしろレンタカー」でクルマを借り、一般道や高速道路、ワインディングロードなどを走ってみるとよいだろう。