映画や小説などの作品では、こだわりを強く反映させると一部で反発を生んでしまう傾向があるように、クルマのキャラクターを際立たせる反面、運転が難しいという評価を受けてしまうこともある。
運転が難しいと言われているスポーツタイプの国産車を5台ピックアップ

ここでは、実体験や巷に流れるインプレッションなどを元に、そのネガティブな面の強い部分をピックアップすることで、その車種の運転が難しいとされる部分を炙り出してみよう。
※以下、各車の簡単な特徴説明とマイナス評価の部分を解説
マツダ・RX-7(FD3S型)
FD3S型はRX-7として3代目にあたるモデルで1991年に発売された。エンジンは先代のFC3S型から引き続いて熟成がおこなわれた654cc×2ローターの13B型を搭載。
新たに高出力とレスポンスを両立させたシーケンシャル式のツインターボを採用して「13B-REW型」となり、後期モデルではロータリーエンジンで初めて(当時の)自主規制値280psの大台に乗った最強ユニットとなっている。
外板の一部にアルミを使用するなどで1200㎏台に収めた軽量な車体と相まって、その加速性能は当時の国内で最高レベルに達している。
足まわりは理想の走りを求めて前後ダブルウイッシュボーン式を採用したうえで、サスペンションアームのブッシュを綿密にチューニングして常時ニュートラルなステア感覚を実現している。
このあらゆる面で理想の走りを追求したFD3Sは、その走りの高い評価の裏で、「スピンしやすい」、「挙動がピーキーで怖いシーンがある」など、気難しい部分を見せるというウワサが散見される。
実際に過去に聞かれた声として、「高速道路の直線で雨に降られた際にレーンチェンジでスピンしそうになった」というものもあった。その理由としては、ハイパワーなエンジンにクイックなレスポンスのハンドリング、そしてワイドなハイグリップタイヤという組み合わせがシーンと乗り方に合わない可能性がある。
慣れればワインディングやショートサーキットで強力な武器になる特性だが、たまに飛ばすような乗り方だとスピン方向の挙動を招いてしまいやすい。それに加えて、先の雨の例のように路面のμが下がるシーンではワイドなハイグリップタイヤの面圧が稼げずにグリップを失いやすくなる傾向もある。
それでも軽量さによってブレークからの復帰はしやすいはずだが、これも慣れていないと難しいだろう。
トヨタ・MR-2(SW20型)
SW20型のMR-2は1989年に登場した2代目のミッドシップ・スポーツだ。初代はAE86型をミッドシップにしたような、軽量性が特色のライトウエイト・スポーツ車だったが、この2代目ではガラッとキャラクターを変えて本格ミッドシップ・スポーツの色を濃くして登場。
シャーシはカローラからセリカへと格上げし、サイズや重量、排気量(パワー)などあらゆる面で拡大された。キャビンのすぐ後ろに搭載されるエンジンもセリカと同じ1998cc直列4気筒ターボの3S-GTE型で、225psを発揮する。
サスペンションはフロントにマクファーソンストラット式、リアにはデュアルリンク・ストラット式を採用。車重は1210〜1710㎏と先代から大幅に増していて、同クラスの車種としてもやや重い部類に入る。
洗練されて流麗な外観となったこのSW20型MR2は走りの方も期待されたが、ガラッと刷新されたシャーシやメカニズムに熟成が追い付いておらず、当初の前期モデルでは多くの問題点が指摘された。
増した車重によってエンジンパワーが喰われて期待した加速特性が得られず、MRの特性である前輪の接地圧不足は解消されないまま、ハンドリングの鈍さや不安定感が顔を出し、それとハイパワーな動力性能との相性の悪さから、旋回中の加速でグリップ限界越えからの急激なスピン挙動が出るなど、危険だと感じるユーザーの声も聞かれた。
これらの評判からマイナーチェンジではボディ剛性の改善やタイヤサイズを変えるなどの対策がおこなわれたが、悪い挙動は抑えられたものの根本的な解消には至らなかったようで、特にこの頃に盛んだったチューニングで悪癖が顔を出すケースも少なくなかった。
ホンダ・S2000(AP1型)
ホンダのS2000(AP1型)は1999年に発売された、ホンダでは28年ぶりのFRモデルのオープンスポーツだ。オープンボディでも屋根付きと同等以上の剛性を狙った設計がなされ、高剛性と同時に安全性の確保を実現しながら、アルミ製ボンネットフードを採用するなどの工夫で車重を1200㎏台前半に収めている。
前後重量バランスを50:50にするため前車軸より後方にマウントされるエンジンは、中型(FF)車向けのF型をベースとしながら、FR車に縦置きするため、クランクシャフトの回転方向を逆回りに変更したS2000専用のF20C型を搭載。
高回転高出力を実現するために11.7の高圧縮比で設計されたVTEC搭載の1997ccDOHC直列4気筒ユニットは、250psの最高出力を8300rpmで発生させる。リッターあたり125psという、市販エンジンでは最高峰の性能は「さすがホンダ」と賞賛を受けた。
サスペンションはホンダ伝統と言える前後ダブルウイッシュボーン式を採用。シンプルな面構成ながら精悍な印象を受ける外観デザインも相まって、このジャンルの車種としては大ヒット作となった。
ホンダが久しぶりに放った本格オープンスポーツだけに、その走りの良さを期待するファンは多かった。ウデに覚えのあるユーザーからは「こういうのを求めていた」と高い評価が聞こえてきたが、その一方で「扱いにくい」という声も一定数あった。
その要因としては、まずハンドリングがピーキーな味付けだったことが挙げられる。本格派にも満足してもらえるようにとおこなった味付けは、同様の目的で固められたサスペンション特性とあわせて一般層にとってはシビアな感触だと受け取られ、緊張感を強いられて運転疲れするという声があがっていた。
また、最大の魅力ポイントである高回転高出力仕様のエンジンは、2Lクラスとしては間違いなく最高のユニットだという高い評価の一方で、さすがのVTECを持ってしても低回転域でのトルク不足は補えなかったようで、普段使いでの扱いづらさが際立ってしまう。後期モデルに搭載されたF22C型では排気量アップと高回転特性を押さえた設計に改良されたことが、その特性がデメリットだと感じた人が少なくなかった証だろう
三菱・GTO
1990年に発売された三菱・GTOもハンドリングにクセがある車種として挙げられることが多い。三菱のスポーツ系最上位車種として、当時の自主規制上限の280psマシンの一角を占めていた車種だ。
最大の魅力はその280psを余裕で発揮する、2972ccDOHCV型6気筒ツインターボの6G72型エンジンだろう。トヨタのスープラ(JZA80型)も280psの3Lツインターボを搭載していたが、43.5kgf·mの大トルクを2500rpmという低回転から発揮する特性は、ゼロからの加速で大きなアドバンテージを持っていた。
全グレードが4輪駆動の構成で、サスペンションは前がマクファーソンストラット式で後ろがダブルウィッシュボーン式を採用。ブレーキも国産車で初となる異径対向ピストンキャリパーを採用し制動力を確保している。外観もアメリカ車を思わせるマッスルな雰囲気でまとめられ、コアなファンを獲得している。
このGTOのハンドリングのクセは、その成り立ちに由来する。ライバル車たちが走りの良さを追求するために根本から構成を作り上げていったのに対して、GTOは意外なことに高級セダンのディアマンテをベースとしているという点でまず方向性が大きく異なっている。
元がFF方式のため、必然としてエンジンを前車軸の前に搭載している。セダンなら居住スペースが広くとれるのでメリットが大きいが、スポーツモデルのベースには適さない。コーナーリング性能を求めると、前後重量配分は50:50に近づけ、重量物は車輌の中心近くに配置するのが理想とされている。
しかしGTOは排気量が大きく重いエンジンを前オーバーハング部に搭載しており、理想からは遠ざかるレイアウトとなっている。また、セダンベースの弊害が重量にも表れ、大柄な車体と相まって車重は1600〜1730㎏とライバルたちより100〜200㎏も重くなっていた。
これによってコーナーリング時にはノーズが外に逃げる動きとなり、コーナーをハイスピードで回ろうとすると、4輪駆動と4WSを持ってしてもハンドリングはアンダーが強く出てしまう。
そして車重の重さがタイヤのグリップ限界を引き下げ、ブレークしたときのリカバリーも難しくする。直線ではライバルを上回っていたが、コーナーを気持ちよく駆け抜ける走りには向いているとは言えない。
日産・マーチ スーパーターボ
マーチ・スーパーターボは1982年に発売されたK10系マーチの派生グレードで、WRCに出場していた競技専用のマーチRの市販版と言えるモデル。最大の特徴はその名前が表すように、スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせたツインチャージャーユニットを装備したMA09ERT型の直列4気筒ユニットを搭載している点。
少ない930ccの排気量から110psを発揮する。しかもそのツインチャージャーによって低回転からモリモリトルクでグイグイと加速をしていく。サスペンションは前がストラット式で後ろが4リンクリジット+コイルバネというオーソドックスな方式を採用して、大きなパワーに見合うように減衰力を高めたダンパーが組み合わせられている。
この怪物エンジンを搭載したマーチ・スーパーターボの実際の走りは、“じゃじゃ馬”という表現が多く見られるものだったようだ。直線では文句なくリッタークラス最強で、場合によっては、2リッタークラスのスポーツ車にも匹敵するポテンシャルがあるとも言われていた。
しかしハンドリング面では“じゃじゃ馬”の悪いところが顔を出す。ハードなセッティングのサスペンションやビスカス式LSD、スタビライザー、ワイドなハイグリップタイヤなど、ラリーでの活躍を見越した装備だったが、それが一般道ではやや過剰だったようで、路面にパワーを伝えるためのセッティングがアンダーステアとなって現れる。
さらに過給器を2つ装備したために車体前方の荷重が増し、そのアンダーステアを強める方向に作用してしまう。そして2つの過給器に加えてインタークーラーを装備しており、コンパクトな車体のエンジンルームはスキ間なく埋められてしまった結果、パワーステアリングの機構が省かれてしまったため、ハンドルの重さが加わってしまう。
これらの要素が合わさり、コンパクトな車体+ハイパワーエンジンという組み合わせのキビキビとした走りを期待したのに、曲がらない車体を重いハンドルで操作するという重労働となり、ホットハッチの走行性能とは大きくかけ離れていたと言える。
それぞれの車種には得意とするシーンや速度域があり、運転のアジャストで評価は変わる可能性が高い

以上、国産車で運転が難しいとされる5つの車種をピックアップしてみた。それぞれの車種で難しいとされる理由は、裏返せばクルマのキャラクターを際立たせるためのものであり、それをうまく伸ばしたりいなしたりすることで難しさは楽しさに転化することができる可能性を秘めているとも言える。
いちどの試乗でその境地に至るのは難しいかもしれないが、長く乗ることでそれをメリットに変えるのも、そのクルマを操る楽しさの一部ではないだろうか。
